更年期治療の柱であるHRT(ホルモン補充療法)ですが、日本ではあまり普及していません。実際に更年期対策でHRTを受けた人は欧米に比べてずっと少ない割合です。
この数字は2004年のものですが、それ以降も劇的に増えているわけではないので、やはり欧米諸国に比べると圧倒的に少ないといえます。
日本でHRTが普及しない理由は?
日本でHRTが普及しない理由については、書籍でもネットでもいろいろ書かれていますが、大雑把に整理すると
日本人の気質とマイナスイメージが先行した
という風に思えるのですがいかがでしょう?
自然の摂理に逆らうのは良くない?
更年期は誰にでも訪れます。卵巣の寿命は決まっているからです。それは自然の摂理なのであえて原因治療(根本的な原因に直接アプローチするHRTのような治療のこと)は必要ないと思っている、という控えめな発想があるのでは?
もしかしたら無意識のうちにそう感じてホルモンを補充するということに抵抗を感じるのかもしれません。
そのため、更年期障害に関しても対症療法がメインになる人が多いですね。痛みには鎮痛剤、肩こりにはマッサージや針など。もちろんそれも良いことです。特に鍼灸は更年期対策には効果を感じる人も多いです。
HRTの本来の意味を正しく理解しましょう
不足したホルモンを外から補うという発想はとても合理的です。まぁ、その思考が日本人にはなかなか難しいのですが。
ただ、ずっと補い続けて若いときと同じような体(この場合はホルモン値)を維持していくというわけではありません。それができたら嬉しいですけどね。。。
更年期障害というのは、厳密に言えばホルモンが減ったせいで不調が出るのではありません。急激に減るために体や脳がその変化に対応しきれないために心身に不調が出るのです。
HRTはその変化をゆるやかにして、体が無理なくエストロゲンの少ない状態に慣れるように補助するための治療です。実際、HRTで補充するエストロゲン量はごく少量です。
HRTで子宮体がんのリスクが高まる?
ホルモン療法というとマイナスイメージを持っている人が少なくありません。当初のHRTは確かに子宮体がんになるリスクが高まると発表されました。
その後もある疫学調査の結果で、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まると発表されたり、乳がんや血栓症のリスクも・・・。とこれだけで治療を受けるのが怖くなってしまいますね。
しかし!現在のHRTは紆余曲折の上に、更年期障害の有効な治療法だと確立されています。その歴史をかいつまんで紹介します。少しは不安が薄れるでしょうか。
エストロゲン製剤は1930年代から開発されています。1942年にプレマリンという結合型エストロゲンが発売されました。これは現在もHRTの薬として使われています。
1970年代入るとプレマリンによるHRTで子宮体がんのリスクが高まることがわかりました。この報告にってHRTは一気に衰退しましたが、その後の研究により見事に復活を遂げました。その理由とは?
子宮体がんが増えた理由と改善策は?
不足したエストロゲンを補うことがHRTの目的です。そのため開発されたプレマリンはエストロゲン剤です。エストロゲンには子宮内膜を増殖させる働きがあるために子宮体がんも発育させてしまうわけです。
そこで!プロゲステロン(黄体ホルモン)を同時に摂ることによってそのリスクが解消されました。プロゲステロンは排卵後に分泌される女性ホルモンです。このふたつを併用することによって、自然な女性のホルモンの働きと同じ状態になります。
現在のHRTは「エストロゲン剤」「エストロゲン+黄体ホルモン配合剤」を基本にその人に合った処方がされています。子宮体ガンのリスクに関しても、黄体ホルモン配合剤を使うことによってむしろ発生が少なくなっています。
2002年アメリカの臨床試験で乳がんリスク?
現在HRTに対する日本人女性の不安として乳がんリスクもありますね。リアル更年期世代にはこちらのリスクのほうが身近に感じるかもしれません。
アメリカの臨床試験の調査結果とは?
この調査では、「脳梗塞・心筋梗塞のリスクが高まった」「乳がん・血栓症のリスクが高まった」という衝撃的なものでした。
ところが、その後研究者たちの検証によってこの調査結果にいくつかの疑問が持ち上がります。まず、調査の対象者が63.3歳という高齢になってからHRTを始めたことです。
その他にも、喫煙者が多い・肥満や脂質異常症の人が多いなど、もともと血栓症や乳がんリスクの高い人が対象でした。これをそのまま日本での更年期治療を受ける女性にあてはめるにはいくらなんでも乱暴です。
ただ、乳がんリスクがはっきりと解消されたわけではありません。長期間(10年とか20年)使い続けると乳がんリスクが高まることは否定できません。HRTはまだ発展途上の治療なのです。
HRTは医師と相談しながら二人三脚で
どんな治療でも、効果とリスクを秤にかけながら受ける必要があります。HRTは紆余曲折の末、受けることができる人や薬の種類・投与量・投与期間など改善されてきました。
副作用は遠慮なく相談
症状改善に抜群の効果を発揮するHRTですが、がんのリスク以外にも副作用が生じることもあります。子宮内膜症や子宮筋腫、乳腺症にかかったことがある人はHRTによって症状が出てしまうことも考えられます。
女性ホルモンを投与することで月経のような出血がおこったり、乳房のハリや吐き気など月経前の症状が強くでることもあります。
積極的に治療に参加しましょう
不調を改善するための更年期治療です。不安をかかえたまま治療したり、不快な症状を我慢するなんて本末転倒です。気になることは何でも医師に相談しましょう。
そして大事なことは積極的に治療に参加することです。医師は患者のホルモン値をみて更年期だと判断はできても、どこがどのくらいつらいのかは本人の訴えを聞いて初めてわかります。
どんな症状でも恥ずかしがらずに相談しましょう。